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ムコ多糖症VI型の原因と影響:概要

早い段階で正確な診断をすることが、疾患に特化した介入の実現には欠かせない

ムコ多糖症(MPS)VI型(マロトー・ラミー症候群)は、破壊的な進行性・異質性の疾患であり、複数の臓器に影響を及ぼす重い病状を伴います。グリコサミノグリカン(GAG)のデルマタン硫酸とコンドロイチン硫酸を分解する、アリルスルファターゼB(ASB)という酵素の活性が欠損することによって生じます。1

ムコ多糖症VI型の症状には実に様々なものがありますが1,2、患者さんは進行の速いタイプと遅いタイプとに分けられることが多いです。

  • 進行の速いムコ多糖症VI型は早期発症を特徴とし、一般的には2~3歳未満で発症します。未治療のほとんどの患者さんは成人期(10~20歳代)まで生存することができません。1,2
  • 進行の遅い患者さんの場合は、概して13~19歳または成人早期に症状が現れます。2

症状の進行速度に関わらず、ムコ多糖症VI型は未治療のままだと数年かけて進行し、以下のような状態に至る可能性があります。3

  • 骨格異形成
  • 関節疾患
  • 心肺疾患
  • 失明
  • 脊髄圧迫
  • 歩行不能4

典型的な症状

ムコ多糖症VI型は、臨床的に異質性のある疾患です。生後1年以内に目立った症状を現す患者さんもいますし、進行が遅く、長い年月をかけて症状が現れる患者さんもいます。しかし大切なのは、ムコ多糖症VI型では連続して症状が現れると知っておくことです。 症状進行のタイプを判断するための確実な指標は存在しません。1,2

Swiedlerらによる横断的調査研究では、進行の速いムコ多糖症VI型を、尿中GAGタンパク質(uGAG)が200 μg/mgを超えるものと特徴づけています。3  患者さんは、生後1年以内に非特異的 な症状を呈する可能性があります。2~3歳時には、以下のような特徴的な症状が現れます。1,2,5

  • 粗な顔貌と、散在したきめの粗い髪
  • 鞍鼻(平らな鼻筋)
  • 幅が広く、前傾した鼻孔
  • 厚い唇
  • 巨舌

進行の遅いムコ多糖症VI型の場合は、uGAGが200 μg/mg以下になると考えられています。症状が顕著に現れず、後年まで診断が遅れることがあります。とは言え、寿命が限られ、生命を脅かされるような重い病状に至る可能性もあります。進行速度に関わらず、一般的にムコ多糖症VI型では、身体的な制約によって患者さんの学習や発達に影響が及ぶことはあっても、神経認知機能に障害がでることはありません。3

以下の表は、ムコ多糖症VI型における主な合併症を臓器別にまとめたものです。ムコ多糖症VI型に伴う臨床症状には多様性がありますが、症状進行はすべての患者さんに起こります。

clinical-manifestations-of-mps-vi

ムコ多糖症VI型の患者さんにおける成長率は、健康な人たちからなる年齢調整された集団よりも極めて低くなります。ムコ多糖症VI型の患者さんの成長が標準から逸脱している場合、それは二次的な問題の徴候を示しているのかもしれません。栄養不良や内分泌異常、心理社会的剥奪といった問題について、速やかに臨床検査をしてください。

Growth-comparison-between-patients-with-rapidly-progressing-MPS-VI- and_AMc

ムコ多糖症VI型の進行

ムコ多糖症VI型は臨床的に異質性のある疾患であり、発症時期や進行速度は変動します。2  以下の図は、進行の速い患者さんと遅い患者さんとの間にみられる変動性を示したものです。進行の速い患者さんには、ムコ多糖症VI型の顕著な症状が数多く認められます。

  • Rapidly-progressing-MPS-VI-patient-as-a-newborn
    新生時
  • Rapidly-progressing-MPS-VI-patient-at-2-years-old
    2歳時
  • Rapidly-progressing-MPS-VI-patient-at-6-years-old
    6歳時
  • Rapidly-Progressing-MPS-VI-patient-at-10-years-old
    10歳時
  • Rapidly-Progressing-MPS-VI-patient-at-16-years-old
    16歳時
  • Rapidly-Progressing-MPS-VI-patient-at-26-years-old
    26歳時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-7-months-old
    生後7ヵ月時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-3-years-old
    3歳時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-7-years-old
    7歳時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-10-years-old
    10歳時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-11-years-old
    11歳時
  • Slowly-progressing-MPS-VI-patient-at-13-years-old
    13歳時

進行が速いものと遅いものとの違いがはっきりと分かるのは、極端な症例だけです。未治療のままでいると、症状進行によって身体的・機能的に満足のいく状態を保つことができなくなり、寿命が著しく短くなってしまいます。4

どのような症状が現れるにしても、患者さんの病状は年月をかけて進行し、最終的には以下のような状態になります。4

  • 車椅子の使用やベッドで休息するために必要とされる可動性が著しく失われる
  • 心肺疾患
  • 失明
  • 脊髄圧迫
  • 若年死亡

ムコ多糖症VI型の患者さんにおける一般的な死因には、感染症や手術後の合併症、心肺疾患があります。4

遺伝と病態生理

ムコ多糖症VI型は常染色体劣性遺伝病の一種で、N-アセチルガラクトサミン4-スルファターゼ(ASB)という酵素が欠損することによって生じます。この欠損によって、組織内に広く存在するライソゾームにGAGのデルマタン硫酸が蓄積してしまいます。13,14

ムコ多糖症VI型の臨床症状は、デルマタン硫酸、ならびにデルマタン硫酸とコンドロイチン硫酸の両方に由来する硫酸化オリゴ糖が、ライソゾームや細胞、組織に蓄積していくことと関連しています。2
Histological-look-at-the-pathophysiology-of-GAG-accumulation-in-MPS-VI_AMc

ムコ多糖症VI型のリスクが高いとされている民族集団はありませんが、特定の変異が起こりやすい民族は報告されています。ムコ多糖症VI型を患うブラジル人が持つ対立遺伝子の23%に、共通の遺伝子変異(1533del23)が見つかっています。ある研究では、ドイツのトルコ系住民では、非トルコ系住民よりもムコ多糖症VI型の出生率が高いことも報告されています。2

ムコ多糖症VI型の患者さんの管理に関する考慮事項

過去10年間にわたり、ムコ多糖症VI型の管理は、臨床医の知識(症状の変動性や進行など)とともに発展してきました。この他にも、成人期まで生存する患者さんの存在といった要因により、管理法の研究や理解、見通しに関する新しい領域が注目されています。

ムコ多糖症VI型は複数の器官系に影響を及ぼすので、多様な症状を管理することが、統合されたケアを提供する上で重要となります。管理には、適応性のある機器や支持的な機器の使用、身体の状況に合わせた作業療法、症状に基づいた薬物療法、外科的介入、酵素補充療法を取り入れる必要があります。4

管理ガイドライン

2007年に刊行された「Management Guidelines for Mucopolysaccharidosis(ムコ多糖症の管理ガイドライン)」では、ムコ多糖症VI型の患者さんの管理について、様々な専門領域にわたる推奨事項が挙げられています。このガイドラインでは、ムコ多糖症VI型の患者さんに対する治療の選択肢として、酵素補充療法(ERT)が推奨されています。4

ガイドラインでは、必要に応じてERTを開始することに加えて、GAGの蓄積に関連する症状に対しては、各器官に特化した管理戦略を立てるよう推奨しています。4

患者さんの転帰を最良のものとするには、集学的・組織的なケアチームによる管理と処置を生涯にわたって提供することが大切です。16  ムコ多糖症VI型の患者さんの場合には、早い段階から定期的な検査を実施して、多臓器にわたる症状の進行を評価し、起こりえる合併症を特定・治療する必要があります。4  以下の表は、ムコ多糖症VI型の患者さんのための評価スケジュールとして、2007年版のガイドラインが推奨しているものです。

Recommended-schedule-of-assesments-for-patients-with-MPS-VI_AMc

手術に関する考慮事項

ムコ多糖症VI型の患者さんの場合、疾患による多臓器障害に対処するため、外科的介入を必要とすることが多々あります。疾患の性質により、この外科的ケアは複雑なものとなります。16

ムコ多糖症VI型の患者さんは以下のような要因を複数かかえていますが、これらは手術のリスクを著しく高める可能性があるのでモニタリングする必要があります。16

  • 呼吸容量の低下
  • 心血管機能の障害
  • 骨の形態4
  • 複雑な気道構造

こういった要因は手術や麻酔によるケアを複雑化するので、最良の転帰を得るには、事前に計画を立てて、疾患に特化した方法をとる必要があります。17

ムコ多糖症VI型の患者さんにおいては、処置によるリスクとベネフィットとのバランスを常に考慮しなければなりません。16

外科的介入を成功させるには、麻酔中に行う特殊な周術期処置(挿管、抜管など)や、術中神経モニタリングにチェックリストを用いることが不可欠です。良好で持続性のある転帰を得るには、ムコ多糖症VI型の専門家からなる統合的手術チームも欠かせません。16,17

成人ケアへの移行

ムコ多糖症IV型の患者さんが成人になれば、医療チームとの関係性も変化するでしょう。こういった移行をうまく進めるには、個別に計画を作成して、治療の中断を最小限に抑えるとともに、小児ケアと親の支援を超える範囲にまで支援を拡大し、成人になった患者さん自身がムコ多糖症IV型の管理について深い知識を持てるようにする必要があります。18

このような移行計画は、患者さんごとの具体的なニーズに合わせて作成してください。そうすることによって、自分自身のケアを引き受けることができる方々であれば必要な器具を手に入れるでしょうし、制限のある方々の場合は、支援してくれる適切なケアとサービスを受けようとするでしょう。計画には、概説した患者さん自身の目標を達成する能力や、自身の病状について情報を伝えるための知識・能力の評価を含める必要があります。18

連携の取れた治療計画で、より良い結果に導く

ムコ多糖症治療は新時代へ。常に情報を入手しましょう。

References:  1. Thümler A, Miebach E, Lampe C, et al. Clinical characteristics of adults with slowly progressing mucopolysaccharidosis VI: a case series. J Inherit Metab Dis. 2012;35(6):1071-1079. doi:10.1007/s10545-012-9474-1.  2. Valayannopoulos V, Nicely H, Harmatz P, Turbeville S. Mucopolysaccharidosis VI. Orphanet J Rare Dis. 2010;5:5. doi:10.1186/1750-1172-5-5.  3. Swiedler SJ, Beck M, Bajbouj M, et al. Threshold effect of urinary glycosaminoglycans and the walk test as indicators of disease progression in a survey of subjects with mucopolysaccharidosis VI (Maroteaux–Lamy syndrome). Am J Med Genet A. 2005;134A(2):144-150. doi:10.1002/ajmg.a.30579.  4. Giugliani R, Harmatz P, Wraith JE. Management guidelines for mucopolysaccharidosis VI. Pediatrics. 2007;120:405-418. doi:10.1542/peds.2006-2184.  5. Muhlebach MS, Wooten W, Muenzer J. Respiratory manifestations in mucopolysaccharidoses. Paediatr Respir Rev. 2011;12(2):133-138. doi:10.1016/j.prrv.2010.10.005.  6. Lin H-Y, Chen M-R, Lin C-C, et al. Polysomnographic characteristics in patients with mucopolysaccharidoses. Pediatr Pulmonol. 2010;45(12):1205-1212. doi:10.1002/ppul.21309.  7. Kampmann C, Lampe C, Whybra-Trumpler C, et al. Mucopolysaccharidosis VI: cardiac involvement and the impact of enzyme replacement therapy. J Inherit Metab Dis. 2014;37(2):269-276. doi:10.1007/s10545-013-9649-4.  8. Willoughby CE, Ponzin D, Ferrari S, Lobo A, Landau K, Omidi Y. Anatomy and physiology of the human eye: effects of mucopolysaccharidoses disease on structure and function—a review. Clin Exper Ophthalmol. 2010;38(suppl 1):2-11. doi:10.1111/j.1442-9071.2010.02363.x.  9. Ganesh A, Bruwer Z, Al-Thihli K. An update on ocular involvement in mucopolysaccharidoses. Curr Opin Ophthalmol. 2013;24(5):379-388. doi:10.1097/ICU.0b013e3283644ea1.  10. Kantaputra PN, Kayserili H, Güven Y, et al. Oral manifestations of 17 patients affected with mucopolysaccharidosis type VI. J Inherit Metab Dis. 2014;37(2):263-268. doi:10.1007/s10545-013-9645-8.  11. Quartel A, Hendriksz CJ, Parini R, Graham S, Lin P, Harmatz P. Growth charts for individuals with mucopolysaccharidosis VI (Maroteaux-Lamy Syndrome). JIMD. 2015;18:1-11. doi:10.1007/8904_2014_333.  12. Data on file. BioMarin Pharmaceutical Inc.  13. NAGLAZYME [package insert]. Novato, CA: BioMarin Pharmaceutical Inc; 2013.  14. Giugliani R, Lampe C, Guffon N, et al. Natural history and galsulfase treatment in mucopolysaccharidosis VI (MPS VI, Maroteaux-Lamy syndrome)—10-year follow-up of patients who previously participated in an MPS VI Survey Study. Am J Med Genet A. 2014;164A(8):1953-1964. doi:10.1002/ajmg.a.36584.  15. Kakkis ED. Enzyme replacement therapy for the mucopolysaccharide storage disorders. Expert Opin Investig Drugs. 2002;11(5):675-685.  16. Walker R, Belani KG, Braunlin EA, et al. Anaesthesia and airway management in mucopolysaccharidosis. J Inherit Metab Dis. 2013;36(2):211-219. doi:10.1007/s10545-012-9563-1.  17. Vitale MG, Skaggs DL, Pace GI, et al. Delphi Consensus Report: Best practices in intraoperative neuromonitoring in spine deformity surgery: development of an intraoperative checklist to optimize response. Spine Deformity. 2014;2(5):333-339. doi:10.1016/j.jspd.2014.05.003.  18. American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians, American College of Physicians, Transitions Clinical Report Authoring Group, Cooley WC, Sagerman PJ. Supporting the health care transition from adolescence to adulthood in the medical home. Pediatrics. 2011;128(1):182-200. doi:10.1542/peds.2011-0969.