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「小児科医が特定の身体所見を認め、放射線科医によるX線検査において椎骨の異常が確認された場合には、遺伝学の専門医に診せる必要があると判断して欲しいですね。」 -Harmatz医師

ムコ多糖症の眼合併症:高い頻度で現れるが、見落としてしまう可能性がある

ムコ多糖症を早期に診断するうえで、眼科は重要な役割を果たす

ムコ多糖症(MPS)における眼症状は、その他の特徴よりも先に現れることが多く、ムコ多糖症のタイプや重症度によって異なります。ムコ多糖症の特徴として顕著にみられるものは、角膜混濁です。1

診断が遅れると、次のような状況に至る可能性があります。

  • 治療の遅れ3
  • 多臓器にわたる重度の合併症3,5
  • 不可逆的または末期の臓器障害5
  • 疾患に特化した治療を十分に受けることができず、手術による死亡のリスクが高まる5-9
ムコ多糖症の徴候・症状は予測不可能なうえ臨床的にも多様性があるので、診断が困難です。患者さんは、ムコ多糖症の非古典的および/または古典的な徴候を呈し、疾患の進行速度には早いタイプと遅いタイプがあります2-4

ムコ多糖症を疑い、照会し、除外する

新しい知識や治療法が登場してきているので、早期に鑑別し、疾患に特化した治療や可能な療法を受けてもらうことによって、ムコ多糖症患者さんとそのご家族の生活に好影響を与えられるチャンスが眼科にはあります。徴候・症状に気づき、早期治療を実現しましょう。10

視力障害を引き起こすことが多い眼科領域の特徴は、ムコ多糖症のすべてのタイプで確認されておりますので、疾患の疑いを高める指標となるはずです。1

よくみられる眼症状には、次のようなものがあります。10

  • 角膜混濁
  • 網膜症
  • 緑内障
  • 視神経の腫脹および萎縮
  • 強度の遠視
  • 角膜の末梢血管新生
  • 進行性偽性眼球突出
  • 両眼隔離
  • 弱視
  • 斜視
Common-ocular-manifestations-of-MPS-and-their-severity-by-type_AMc

「すりガラス」様の角膜混濁がみられる場合には、ムコ多糖症の疑いが高いと判断してください。1

角膜混濁は、ムコ多糖症I型・VI型・VII型では非常に発現頻度の高い症状ですが、その他すべてのタイプにおいても現れる可能性があります。1  ムコ多糖症における角膜混濁は、特徴的な「すりガラス」様の外観を有していますが、これは先天性遺伝性角膜ジストロフィーやHarboyan症候群といった遺伝性角膜ジストロフィーでも認められる特徴です。11  ムコ多糖症患者さんの場合、角膜混濁は進行性であり、往々にして乳児期から現れます。最初は無症状であるか(スクリーニングで特定されます)、進行の遅い視力低下を伴う羞明として現れます。後期になると、視力喪失に至る可能性もあります。1

ムコ多糖症患者さんは往々にして多岐にわたる一群の稀な症状を呈しますが、単独で現れたものであっても、遺伝学の専門医や代謝疾患の専門医療機関に照会してみる価値はあります。12

ムコ多糖症の疑いが高まる徴候・症状について詳しく調べる

ムコ多糖症は、その症状と進行速度が予測不可能なうえ多臓器にわたり、また多様性もあるので、診断が困難です。5

診断の遅れは珍しくありませんが、患者さんの転帰に深刻な影響を与えてしまうかもしれません。早い段階で正確な診断を下すために、多臓器にわたる徴候・症状を早期に鑑別することが重要です。2,5,7  現場で遭遇し得る多種多様なムコ多糖症の徴候・症状に精通しておきましょう。

ムコ多糖症を診察するその他の手段は?

徴候・症状のパターンからムコ多糖症の臨床的疑いを高める

どのような臨床状況であっても、ムコ多糖症を疑うべき徴候は、一見して明らかで、よく観察されるような症状であることもあります。検査を進めていけば、専門領域に特化した臨床評価、検査所見、そして患者さんの既往歴を通じて、さらに症状が見つかるかもしれません。以下は、その具体例です。

ムコ多糖症の徴候と症状2-5,10,13-25

筋骨格系

一般的な特徴

  • 歩行障害
  • 骨異形成
  • 鷲手
  • 粗な顔貌
  • 関節痛
  • 巨頭症
  • 鳩胸
  • 持久力/運動耐容能の低下
  • 低身長/発育遅延a

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 歩行障害
  • 骨変形
  • 多発性骨形成不全
  • 外反膝(X脚)
  • 炎症のない関節合併症(拘縮、関節弛緩症)
  • 脊椎亜脱臼

リウマチ科

一般的な特徴

  • 関節可動性の低下
  • 股関節硬直/股関節痛
  • 関節痛
  • 関節硬直または関節弛緩

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 手根管症候群
  • 関節腫脹のない関節合併症またはびらん性骨病変

耳鼻咽喉科

一般的な特徴

  • 伝音性および/または感音性の難聴
  • 舌肥大
  • 反復性中耳炎

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 咽頭蓋の異常
  • 陥没した鼻梁
  • アデノイド肥大
  • 扁桃腺肥大
  • 中耳粘液
  • 声門上・声門下気道の狭窄
  • 耳小骨形成異常
  • 反復性の過剰な鼻漏
  • 反復性中耳炎
  • 気管肥厚/圧迫
  • 気管閉塞
  • 鼓膜肥厚

眼科

一般的な特徴

  • 白内障
  • びまん性角膜混濁
  • 緑内障

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 弱視
  • 特徴的な「すりガラス」様の角膜混濁
  • 強度の遠視
  • 両目隔離
  • 視神経異常(腫脹および萎縮)
  • 角膜の末梢血管新生
  • 進行性偽性眼球突出
  • 視力の低下
  • 網膜症
  • 斜視

神経系

一般的な特徴

  • 行動異常(ムコ多糖症IVA型とムコ多糖症VI型では概して現れない)
  • 発育遅延(ムコ多糖症IVA型とムコ多糖症VI型では概して現れない)
  • 難聴
  • 発作(ムコ多糖症IVA型とムコ多糖症VI型では概して現れない)

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • くも膜嚢胞(ムコ多糖症IVA型とムコ多糖症VI型では概して現れない)
  • 脳萎縮(ムコ多糖症IVA型とムコ多糖症VI型では概して現れない)
  • 手根管症候群
  • 頚髄圧迫/脊髄症/亜脱臼
  • 血管周囲腔拡大
  • 水頭症
  • 歯突起形成異常
  • 頚部硬膜炎
  • うっ血乳頭/視神経萎縮
  • 感音性難聴
  • シグナル強度の異常
  • 脊柱管狭窄
  • 脳室拡大

心血管系

一般的な特徴

  • 持久力/運動耐容能の低下

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 肺高血圧
  • 左心室肥大における僧房弁または大動脈弁の肥厚、逆流、狭窄
  • 三尖弁逆流

呼吸器系

一般的な特徴

  • 持久力/運動耐容能の低下
  • 睡眠時無呼吸

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 上下気道の閉塞(気管支狭窄、声門上・声門下気道の狭窄)
  • 進行性の肺気量低下
  • 呼吸器感染
  • 睡眠障害(閉塞性睡眠時無呼吸/抵呼吸症候群および上気道抵抗症候群)

消化器系

一般的な特徴

  • 腹痛
  • 便秘
  • 肝脾腫
  • ヘルニア
  • 軟便

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 肝脾腫

歯科

一般的な特徴

  • 頬側面異常
  • 象牙質形成不全
  • 歯数不足
  • 尖頭
  • スペード形の切歯
  • 薄いエナメル質

専門領域に特化した評価から分かる特徴

  • 頬側面異常
  • 薄いエナメル質

a骨格系疾患と低身長が顕著に現れない患者さんもいます。

ムコ多糖症患者さんの鑑別において、眼科は重要な役割を果たすことができます。該当する患者さんがおられましたら、遺伝学の専門医や代謝疾患の専門医療機関に照会して診断を確定し、可能であれば治療を開始してください。12

ケーススタディ:眼症状があればムコ多糖症を照会し、診断につながる可能性も10

症例は臨床症例の一部を紹介するも ので、全ての症例が同様な結果を示すわ けではありません。

乳児に眼症状がみられる場合には、ムコ多糖症の診断につながる可能性があります

概要:

  • 生後12ヵ月のときに頭囲が異常に拡大していることが認められ、眼検査のため照会された乳児
  • 顔貌異形、眼角隔離、異形眉とともに、原因不明の角膜混濁が発現
  • 生後18ヵ月でムコ多糖症と診断
進行の遅いムコ多糖症は、診断されずに経過してしまうことが多々あります。

病歴

生後12ヵ月:

  • 頭囲が異常に拡大しており、うっ血乳頭を除外する眼検査のため照会
  • 顔貌異形、眼角隔離、異形眉とともに、原因不明の角膜混濁が発現
  • 脳室腹腔シャント術の後、もともとあった斜視は消失したが、光過敏症は残存

生後18ヵ月:

  • ムコ多糖症I型と診断される
  • 幹細胞移植を受ける
  • 縞視力は両眼で 3.6 cycles/degreeだったが、眼底で反射しており「鈍い」との報告

3歳:

  • 両眼視力0.5、立体視陰性、遠視(右眼・左眼それぞれ+5)が認められる
  • 処方された屈折遮光眼鏡を快く受け入れる

4 – 5歳:

  • わずかな右側内斜視と弱視が認められる
  • 集中遮閉療法を開始
  • 右眼は弱視のまま
  • 角膜は依然として若干の混濁がみられる

6 – 7歳:

  • 角膜の厚さに著しい異常はみられない

まとめ

ムコ多糖症の診断が遅れると疾患が進行していきますので、患者さんにとっては脅威となります。

その一方で、次のような理由により、眼科医がムコ多糖症の小児患者さんを臨床的に評価するには困難を伴います。

  • 鈍い眼底反射のせいで、網膜検影法を実施するのが難しいことがあります。
  • 重度の羞明、協力してもらえない、認知の遅れ、多動性障害といった理由により、検査が妨げられる可能性があります。

このケースでは、早い段階でムコ多糖症との診断を下すことで、臨床転帰の向上につながる早期の介入・治療が可能となりました。

ムコ多糖症における眼症状と非眼症状の知識を深めれば、眼症状を呈していてもムコ多糖症とは診断されていない小児患者さんに対して、早期に診断を下せるかもしれません。1,10

眼症状が、特に古典的あるいは非古典的なその他の徴候とともに認められるときには、遺伝学の専門医や代謝疾患の専門医療機関まで早急に照会してください。12

さらに詳しく

早い段階で検査を実施することにより、早期介入が可能になります。
遅れが生じないようにしましょう。

ムコ多糖症治療は新時代へ。常に情報を入手しましょう。

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